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「それより昨日、ノアさんはなんで上を向いていたんですか? 」
「ただ単に星見てただけ。ほんとに怪我させて悪かったな。 」
「いえ、秋の星って、わかりやすく無いから、むしろ探したくて見ちゃいますよね。」
「そうそう、ぼんやりしててな。」
「だから、探してしまう。」
「何を?」
星空に探す、という言葉が自分と重なってつい聞いてしまった。深追いしすぎだろうか、といきなりひどく大人びた表情へと変わった彼を見て思う。
彼は口を閉じて、そして伏し目がちに窓の外の方に目をやって、それからゆっくりと口を開いた。
「一年前亡くなった姉なんですけどね、
最後の方星になって見守るから、なんていつも言ってて。
…そんなこと頭から信じてるわけじゃ無いけれど、もしいるとしたら、秋の星の中にいるんじゃ無いかって思うんです。
優しくて温かく寄り添ってくれて、でも決して主張しない人だったから。
あ、すみません暗い話して。そこまで聞きたいわけじゃなかったですよね。」
ここまで理由が近いと、はっきりと共感してしまう。
「いや、俺もだから。」
「?」
「星空の中に探してる人がいるんだ。
だから、…なんつーか、同じだな。カルロと。」
何かに反応して、彼の肩が跳ねた気がする。心なしか顔も赤く映った。
皿の上の焼き菓子は、もともと少ししか出していなかったからもうなくなっている。
カルロがあんまり寂しそうにしていたので、ついテオにするのと同じように頭を撫でた。すると、気持ちよさそうに目を閉じる。
「じゃ、俺はそろそろ帰る。」
「色々ありがとうございます。
そこまではいいです!自分でします!」
「気にするな。安静にしてろ。」
食器を洗おうとして止められたが、無視して続ける。全て元ある位置に戻すと、再びまたねをつげた。
「また、来てくれますか? 」
そう発した言葉は、とても寂しげで、さっきの話に共感したせいも相まって、放っておけなくなる。
「近いうちに来るよ。」
「まっています。」
またね、と手を振る笑顔は、無邪気で、その反面、一瞬見た彼のあのひどく大人びた表情の意味を考えてしまう。
空を見て思う。あの人もいるとしたら秋の空だろうか。
少し立ち止まってから前を向くと、目の前にある月はぼんやりと温かそうだった。
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