ep2 過去の人と秋の夜空

4/4
105人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「それより昨日、ノアさんはなんで上を向いていたんですか? 」 「ただ単に星見てただけ。ほんとに怪我させて悪かったな。 」 「いえ、秋の星って、わかりやすく無いから、むしろ探したくて見ちゃいますよね。」 「そうそう、ぼんやりしててな。」 「だから、探してしまう。」 「何を?」 星空に探す、という言葉が自分と重なってつい聞いてしまった。深追いしすぎだろうか、といきなりひどく大人びた表情へと変わった彼を見て思う。 彼は口を閉じて、そして伏し目がちに窓の外の方に目をやって、それからゆっくりと口を開いた。 「一年前亡くなった姉なんですけどね、 最後の方星になって見守るから、なんていつも言ってて。 …そんなこと頭から信じてるわけじゃ無いけれど、もしいるとしたら、秋の星の中にいるんじゃ無いかって思うんです。 優しくて温かく寄り添ってくれて、でも決して主張しない人だったから。 あ、すみません暗い話して。そこまで聞きたいわけじゃなかったですよね。」 ここまで理由が近いと、はっきりと共感してしまう。 「いや、俺もだから。」 「?」 「星空の中に探してる人がいるんだ。 だから、…なんつーか、同じだな。カルロと。」 何かに反応して、彼の肩が跳ねた気がする。心なしか顔も赤く映った。 皿の上の焼き菓子は、もともと少ししか出していなかったからもうなくなっている。 カルロがあんまり寂しそうにしていたので、ついテオにするのと同じように頭を撫でた。すると、気持ちよさそうに目を閉じる。 「じゃ、俺はそろそろ帰る。」 「色々ありがとうございます。 そこまではいいです!自分でします!」 「気にするな。安静にしてろ。」 食器を洗おうとして止められたが、無視して続ける。全て元ある位置に戻すと、再びまたねをつげた。 「また、来てくれますか? 」 そう発した言葉は、とても寂しげで、さっきの話に共感したせいも相まって、放っておけなくなる。 「近いうちに来るよ。」 「まっています。」 またね、と手を振る笑顔は、無邪気で、その反面、一瞬見た彼のあのひどく大人びた表情の意味を考えてしまう。 空を見て思う。あの人もいるとしたら秋の空だろうか。 少し立ち止まってから前を向くと、目の前にある月はぼんやりと温かそうだった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!