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「あ、ここです。」
お店に入ると、傘の水気を払ってたたむ。僕から遠い側の肩は、少し色が変わるところまで濡れている。タオル地のハンカチでそれを拭き取っていくと、そんなのいいのにと笑われた。
「カルロが言ってたのはこれ?」
いいと言いながらもおとなしく肩を拭かれながら彼が指差した先には、まさに僕が素敵だと思っていたマフラーがある。
「よくわかりましたね。」
なぜわかったのかと素直に驚いた。触り心地が良く、そして温かい生地。機能性に優れたシンプルなデザインだが、薄い空色のものがテオに似合いそうだと思っていた。
「俺もこれがいいと思ったから。
アシュリーさんにはベージュがいいかな。あの人最近やけに茶系が好きなんだよな。」
感性が合うことは素敵なことだ。ノアさんと同じ感覚だとわかって嬉しい。
「テオにはこの空色のはどうでしょうか?」
「あー、似合いそう。
…ピアスのせいかな?青系が似合うよな。」
「僕もそう思います。」
これも同じ考えだったのか。2人で気が合いすぎだと思わず笑ってしまった。
ああ、離れたくないな、と思う。この瞬間がずっと続けばいいのに。
そう思っていると、いきなりノアさんに頭を優しく撫でられた。
「?」
どうしたのだろうと彼の目を見る。
「いや、なんか、悲しげな顔してるからさ。」
…顔に出ていたか。
そんな顔をしていてはいけないと思い、無理に笑顔を作る。笑ったはずなのに、彼には余計に力強く撫でられてしまった。
「じゃ、俺買ってくるから。」
「僕が買いますよ。」
「じゃあカルロはテオの分を買って。」
「…わかりました。」
どっちも僕が買うのに。ノアさんは僕を甘やかしすぎだ。生活費だって渡そうとしても受け取ってくれない。
はやく彼の家族に会ってみたいと思うのに、それが終わったらちゃんと告げなきゃいけないことがあると思うといつまでもこのままでいたいと願ってしまう。
明日になったら僕の横に、この温もりは無くなるのだから。
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