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「あ、テオ、危ない。」
「あつっ…でもこのくらいなら大丈夫。」
「だめだよ、ちゃんと冷やさなきゃ。」
アシュリーさんがテオの手を優しくつかみ、水を張ったボウルに入れた。テオはそこまでしなくていいのに、とぼやきながらも、されるがままにされ、顔を赤くしている。
2人の間には、誰も入り込めなそうな空気が流れていて、お互いがお互いのことを大切に思っているのが伝わってきた。
「…あの2人って… 」
隣にいるノアさんに小さな声で囁く。
「ああ、恋人同士。」
「やっぱりそうですか。」
少し驚きはするけれど、素敵な関係だと思う。2人は明らかにお互いを特別大切にしていて、そして幸せそうに映った。
「「「「メリークリスマス」」」」
しばらくしてお待たせしてごめんなさいと謝りながらテオとアシュリーさんがキッチンから戻ってきて、グラスに飲み物を注いでくれた。そして乾杯をして、食事を食べ始める。
最後の夜だ。夢の終わり。でもそれをあまり考えず今が楽しいのは、この温かい空間にいるからだ。
笑いながら雑談をして、ゆるやかに流れて行く時間をすごし、それは本当に素敵な体験だった。料理の味は覚えていない。
それでも、この優しい時間のことは、いつまでも大切に覚えておこうと、日記なんて書いたことがないけれど、少しも忘れないように書き留めておこうと思った。
食事が終わり、帰り際、2人に持ってきたプレゼントを渡す。
「これ、よかったら使ってね。」
「ありがとうございます。
…あ、この色。大好きな色だ。」
テオが受け取ったマフラーを見て、嬉しそうに目を細めた。アシュリーさんはそんなテオを愛おしそうに眺めている。
「帰り、気をつけてね。」
「はい、ありがとうございます。」
「またきてくださいね。」
「うん」
テオのまた来てね、という言葉への返事は嘘だった。今だけ許してほしい。最後の幸せを、ありがとう。大切にするから。
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