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「…わかったわかった。あんた家どこ?」
「そこの、スーツのお店です」
指さされた先にあったのは、2年ほど前にできたオーダーメイドスーツ店。まあ、そんなことはどうでもいいか。ここから20歩くらい。夜なので周りにはもう誰もいない。
まあいいか。
「じゃ、ちゃんと捕まっててな。」
「え、…わっ!」
もし捻挫や骨折をしていたらこっちの落ち度だ。手当てする必要がある。彼を肩に担いで彼の店へと入っていく。
よかった。鍵はかかってない。
店内はそこまで広くはないが、鏡をうまく使って広く見せる作りになっている。
おそらく客と話し合いをするのに使うのであろうソファーに彼を降ろすと、まだ動揺していた彼が、やっと安心したかのようにため息をついた。
その靴を片方脱がせ、さらに靴下も脱がせる。
「あ、あの、ちょっと…」
また慌てだしたが、とりあえず説明するより先にこっちだ。そっと、やさしく足の甲の中心部を押してみる。
「あっ…」
小さなうめき声と彼の激痛に耐えるような表情を伺う限り、ビンゴだろう。
「折れてるな。失礼。何か薄い板とか、固定するものはあるか?」
そっと靴の上に彼の足を降ろす。痛みがほんの一部ということは、おそらくひびが入った程度。あの衝撃から全て折れる心配は少ないからそれで妥当だろう。
布はありそうだから、あとは固定するものがあれば十分だ。最悪なければうちに取りに行けばいい。
「あの、多分奥にベニヤ板があります。」
強めの調子で聞いたからか少し声が怯えている。あとで訂正しておかないと。奥に行くと、壁に取り付けられた作業台のようなものと椅子があり、綺麗に整理された棚の中にちょうどいい厚さの板がある。
「これ、切っていい?」
ちかくにノコギリがあるのを見て、聞いてみる。
「そのくらい僕がやります。」
「いいから座ってろって。」
「…はい。」
椅子に板を固定し、足より少し大きめに切断した。そのほかあまりの布切れのようなものがあったので、拝借する。
「足出して。」
「…はい。」
やっぱり怯えている。焦っていたとはいえ強く言いすぎたことを反省した。
「焦って強く言いすぎた。ごめんな。」
謝りながら彼の足を板で固定し周りから布を巻きつける。
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