ep1 孤独な夜とスーツのお店

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「…わかったわかった。あんた家どこ?」 「そこの、スーツのお店です」 指さされた先にあったのは、2年ほど前にできたオーダーメイドスーツ店。まあ、そんなことはどうでもいいか。ここから20歩くらい。夜なので周りにはもう誰もいない。 まあいいか。 「じゃ、ちゃんと捕まっててな。」 「え、…わっ!」 もし捻挫や骨折をしていたらこっちの落ち度だ。手当てする必要がある。彼を肩に担いで彼の店へと入っていく。 よかった。鍵はかかってない。 店内はそこまで広くはないが、鏡をうまく使って広く見せる作りになっている。 おそらく客と話し合いをするのに使うのであろうソファーに彼を降ろすと、まだ動揺していた彼が、やっと安心したかのようにため息をついた。 その靴を片方脱がせ、さらに靴下も脱がせる。 「あ、あの、ちょっと…」 また慌てだしたが、とりあえず説明するより先にこっちだ。そっと、やさしく足の甲の中心部を押してみる。 「あっ…」 小さなうめき声と彼の激痛に耐えるような表情を伺う限り、ビンゴだろう。 「折れてるな。失礼。何か薄い板とか、固定するものはあるか?」 そっと靴の上に彼の足を降ろす。痛みがほんの一部ということは、おそらくひびが入った程度。あの衝撃から全て折れる心配は少ないからそれで妥当だろう。 布はありそうだから、あとは固定するものがあれば十分だ。最悪なければうちに取りに行けばいい。 「あの、多分奥にベニヤ板があります。」 強めの調子で聞いたからか少し声が怯えている。あとで訂正しておかないと。奥に行くと、壁に取り付けられた作業台のようなものと椅子があり、綺麗に整理された棚の中にちょうどいい厚さの板がある。 「これ、切っていい?」 ちかくにノコギリがあるのを見て、聞いてみる。 「そのくらい僕がやります。」 「いいから座ってろって。」 「…はい。」 椅子に板を固定し、足より少し大きめに切断した。そのほかあまりの布切れのようなものがあったので、拝借する。 「足出して。」 「…はい。」 やっぱり怯えている。焦っていたとはいえ強く言いすぎたことを反省した。 「焦って強く言いすぎた。ごめんな。」 謝りながら彼の足を板で固定し周りから布を巻きつける。
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