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「痛くない?」
とりあえず簡単な処置をして、後は水を入れた袋で冷やしておく。声は、なるべく優しく。
「痛くないです。
…あの、こんなことまでしていただいて、ありがとうございます。」
とりあえず怖くは無くなったようだ。彼の声が落ち着きを取り戻している。
「いや、これ俺のせいだし。かなりおもいっきり踏んだからな。しばらくそっちの足にはなるべく負荷かけないように。」
「はい、ありがとうございます。お手数かけて申し訳ありません。今お茶を淹れるので少し待っていてください。」
この人はさっきの言葉を聞いていたのだろうか。なるべく負荷をかけないように、と確かに言ったはずだ。気遣いなんていらない。
「いや、いいから。安静にしてて。」
「…といっても、僕が欲しいので。」
「俺がいれてくる。どこ?」
「二階が居住スペースになっているので、そこに。あ、奥から入れます。」
見ず知らずの他人に家を教えていいのか?と思いながら二階に上がると、たしかに小さいが生活感のある空間がそこにあった。入ってすぐにキッチンがある。
勝手にポットと茶葉と茶器を使い、紅茶を淹れて、トレイに乗せる。
「何から何まですみません。」
「謝るなって。こっちも悪いんだから。」
「はい、すみません。」
テーブルの上に置かれたマグに手を伸ばし、それを口に持って行く。そして縁に口をつけて、、、
落ち着いて見てみると、驚くほど1つ1つの動作が美しい。指先まで完璧にそうあって欲しいという理想の姿がある。
そして、彼が髪をかきあげる仕草をした時、ふとどこかで見たことがあるような気がした。
「俺、あんたに会ったことある?」
マグから口を離した彼が、驚いたようにこちらをみる。そしてなんとも微妙な間を空けたあと美しく微笑んで口を開いた。
「いえ、一度も。初めてです。」
なんだその微妙な間は、、、。と思いながらも気にしないことにする。下手な詮索をしてまた怖がられても困るし。
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