ep1 孤独な夜とスーツのお店

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「痛くない?」 とりあえず簡単な処置をして、後は水を入れた袋で冷やしておく。声は、なるべく優しく。 「痛くないです。 …あの、こんなことまでしていただいて、ありがとうございます。」 とりあえず怖くは無くなったようだ。彼の声が落ち着きを取り戻している。 「いや、これ俺のせいだし。かなりおもいっきり踏んだからな。しばらくそっちの足にはなるべく負荷かけないように。」 「はい、ありがとうございます。お手数かけて申し訳ありません。今お茶を淹れるので少し待っていてください。」 この人はさっきの言葉を聞いていたのだろうか。なるべく負荷をかけないように、と確かに言ったはずだ。気遣いなんていらない。 「いや、いいから。安静にしてて。」 「…といっても、僕が欲しいので。」 「俺がいれてくる。どこ?」 「二階が居住スペースになっているので、そこに。あ、奥から入れます。」 見ず知らずの他人に家を教えていいのか?と思いながら二階に上がると、たしかに小さいが生活感のある空間がそこにあった。入ってすぐにキッチンがある。 勝手にポットと茶葉と茶器を使い、紅茶を淹れて、トレイに乗せる。 「何から何まですみません。」 「謝るなって。こっちも悪いんだから。」 「はい、すみません。」 テーブルの上に置かれたマグに手を伸ばし、それを口に持って行く。そして縁に口をつけて、、、 落ち着いて見てみると、驚くほど1つ1つの動作が美しい。指先まで完璧にそうあって欲しいという理想の姿がある。 そして、彼が髪をかきあげる仕草をした時、ふとどこかで見たことがあるような気がした。 「俺、あんたに会ったことある?」 マグから口を離した彼が、驚いたようにこちらをみる。そしてなんとも微妙な間を空けたあと美しく微笑んで口を開いた。 「いえ、一度も。初めてです。」 なんだその微妙な間は、、、。と思いながらも気にしないことにする。下手な詮索をしてまた怖がられても困るし。
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