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ep1 孤独な夜とスーツのお店
薄暗い店内は、ところどころぼんやりした灯りがともり、幻想的な雰囲気を醸し出している。
グラスに注いだシャンパンの水面は、その光を乱反射しながらきらめき、揺らいでいる。互いのグラスを重ねると、目の前の彼女は一気にそれを飲み干した。
「ノアって本当に顔は最高だよねー。
私は身体は要らないから、目の保養に付き合ってくれて助かるー。」
気持ちよさそうに満面の笑みを浮かべると、その口でまあまあ失礼なことを言ってくれる。まあ、お互いに割りきっていることなので気にならない。
テオに性交渉についての話をしてから、なんでしているんだろうと考えているうちにすること自体が嫌になった。
もともと真剣に付き合おうとしてくる人には干渉しなかったので簡単に足を洗えたが、そういう行為を伴わないデートなどについては続けていた。
いつもいいと言っているのに、私から誘ったんだからと押し切られてついご馳走になってしまう。
「サラさんこそ相変わらずお美しい。なんだかんだいつもご馳走になってしまって、すみません。」
「私はお金いっぱいあるからいーのっ。あなたも私も、いつか特別な誰かが見つかるといいわね。」
そう、俺たちは互いに、口の中の寂しさを紛らわせる飴玉のような存在だ。いつも本当は、どこかで自分にとって必要な人を探している。
「そうですね。」
自分の飲みかけのグラスをみると、貼り付けたような笑みを浮かべる自分が淡く映り、揺れていた。そこから目を背けたくて飲み干しても、結局グラスに映って消えない。
それをじっと見つめていると、いきなり前にいた彼女がばたんと席を立った。
「いけない!私明日予定あるの忘れてた!
お金は前払いしてあるから、後ゆっくりしてね!じゃあ、また来週!」
忙しい人だ。週一回どうしてもと頼み込まれて食事にくるが、3回に1回くらいはこんな調子で帰ってしまう。
「いつもすみません。じゃあまた。」
「うん。今日もありがと。」
結局1人に逆戻りだ。特に誰か一緒にいたい人がいるわけでもないが、1人だと物寂しい。もったいないと思いながらも、残りのシャンパンはそのままにして外に出ることにした。
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