第三話

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「お師匠……小夜里どのは、小太郎の行く末を如何(いか)に考えておられるか」 小夜里は詰まった。 小太郎はまだ、数えで七つだからである。 「実は、今日、他郷の藩道場より来られた剣術指南役の御仁に小太郎を見てもらったのだが」 小夜里の顔が固くなる。 「……いや、小夜里どのの了承を得ずに勝手な真似をしてしまったことはお詫びいたす。なにぶん、急なことであったからな」 小夜里は小太郎のたった一人の親にもかかわらず、蚊帳(かや)の外にされて腹立たしかったが、玄丞に対して強くは云えなかった。 季節の変わり目には必ずしつこい風邪に悩まされてきた小太郎が今、つつがなく過ごせるのは、ひとえに玄丞のおかげだったからである。 小太郎が生まれた時分に、長崎から戻って藩の御殿医に就いた玄丞は、小太郎が熱を出すと、父の玄胤に云われて、昼夜を問わず駆けつけて熱心に診てくれた。 藩主のための御殿医に診てもらうなぞ、何処(どこ)ぞのお大尽か、というほどの贅沢である。
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