第十話

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さらに、今日は息子の小太郎が藩道場から帰ってくる日である。 いつまでも、こんなことはしていられない。 すると、朝を迎えて、さすがの宮内少輔も睡魔に勝てずにいたのか、知らぬ間に隣で寝息を立てていた。 小夜里はこれを吉書(きっしょ)に、するりと(ねや)から出た。 取り急ぎ身支度をして、(へっつい)のある土間へ行き朝餉(あさげ)の用意に取りかかる。 やはり、まだおみつは来ていない。 こんなことは初めてだった。 一晩中寝ないで、宮内少輔の愛撫を受け続けた小夜里の身体(からだ)は重だるく、ちょっとした用事にも難儀した。 だが、今晩からはもう、あの(たぎ)るような熱をこの身体で受け止めることができなくなると思うと、せつなさとやるせなさが去来する。 その反面、小太郎を孕んだあの夜から七年以上も経ってすっかり母親になった自分が、まだ一人の「おなご」として愛しい殿方に思うままにされて悦びを感じていることに、心の底から恥じた。 今日は小太郎が藩道場から帰ってくる日ということで、手習所は休みにしていた。 それだけが、小夜里の救いだった。
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