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第十一話
小夜里は三つ指をついて、我が子を出迎えた。
「此度の御役目、大儀にてござりまする」
小太郎は少し得意げな顔で母を見た。
離れていたわずかばかりのうちに、心なしか、逞しくなったように見受けられる。
「お師匠、小太郎はこの半月ばかりの間に、かなりの稽古を積み、励んでござった」
後ろ盾のない小太郎の世話役を務めてくれていた玄丞が云った。
「玄丞先生、此度は小太郎のために御足労をおかけいたし、誠にありがたく存じまする」
小夜里は、今度は玄丞の方に三つ指をつく。
「母上、藩道場でも合間に、しかと論語の素読は続けてござったゆえ」
小太郎が胸を張る。小夜里は微笑んだ。
すると、そのとき。
すーっと音がして、奥の襖が開いた。
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