第三話

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第三話

武家ではあるが、町医の道を選んだ竹内 玄胤の一人息子として生まれた玄丞は、まだ齢三十半ばにもかかわらず、藩の御殿医を務めていた。 だから、藩主からいつ何時お召しがかかるかしれぬので、医師が常日頃着ている十徳ではなく、いつも羽織袴をきちっと身につけている。 また、医師によく見られる総髪でもない。武家らしくきちんと月代(さかやき)を剃り、本田髷(ほんだまげ)を結っている。 玄丞は子どもの頃より近隣の藩にまでとどろく秀才で、二十代の頃には長崎に遊学し蘭方医になるべく励んでいたが、三十になるくらいに帰郷するとすぐに藩医として召し抱えられた。 そのうえ上背(うわぜい)があり、まるで異国の血が入ったかのような端麗な面立ちなので、妻女にする女などは手前勝手に選べるはずであったが、未だ独り身であった。 「……本日参ったのは、ほかでもない小太郎のことであるのだが」 おみつが茶を運んで去ったあと、玄丞が話を切り出した。
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