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あの子の空
空を見上げることが、死ぬまでに一体何回あるだろうか。
人生最後に見る空というのは、青空だろうか、それとも雨空だろうか。
人生最初に見た空というのは、青空だったろうか、それとも雨空だったろうか。
はじめて友達のできた日の空は、
あの子とさよならした日の空は、
ひとりぼっちで泣いていたあの日の空は、
一体どんな空だったのだろう。
もしかしたらその日は空を見なかった日かもしれないのに、空を見上げる度に、あの日の空のことを思いだそうとしてしまう。
あの子の口癖だった。
「今日は空が凄く綺麗だね。」
あの子と一緒の記憶の始まりはいつもこの言葉から始まるくらいに。
まるでおとぎ話の「はじまりはじまり」みたいに、記憶の中にいるあの子はいつも窓の外を指さして「見て、今日は空が凄く綺麗だよ」と教えてくれている。
でも、肝心な窓の外の空を私は覚えていない。
その時の私に肝心だったのは、あの子が綺麗と言った空ではなくて、あの子の横顔だけだった。小さな歯が隙間無くびっしりと生え揃った歯茎の覗く、嬉しそうな笑顔だけは鮮明に覚えている。
あの子が死んでから、あの子との記憶を繰り返し脳味噌に再生させてきた。
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