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「お願いですので、どうか消していただけないでしょうか……」
「そう頼まれてしまうと弱いですね」
彼女は眉を下げ、手で口許を押さえた。挑戦的な性格かと思ったが、人間味のあるところもあるじゃないか。
「10億で手を打ちましょう」
「それでも人間なのか!」
一瞬でも優しさを感じた自分を殴りたくなった。歪んでるのは眼鏡だけじゃないんじゃないか。
「別に気にしないので大丈夫です」
「僕が気にするんだよ。噂にでもなったら……」
「私の作品を消すなんて高いですよ」
「作品?」
彼女はカチカチとボタンを押し、他の写真を見せてくれた。
「これは前に撮ったのです。まだ紅葉が残ってるのが珍しくて」
「ほーう」
白の中に赤黄色が散り、異様さを魅せている。写真のことはよくわからないが、確かにセンスがいいかもしれない。寒空に取り残された葉は、雪の中で何を思うのだろうか……。
「えい」
「うわっ」
彼女が黒いレンズで僕をのぞきこんだので、慌てて跳び跳ねるようにフレームアウトした。
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