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第十一話
霜月に入って以来、江戸の町では流行り病が猛威を振るっていた。
昨年の終わり、初音から父を奪った病であった。
今年、身重の自分は特に気をつけねばならぬ。
御屋敷の中でも、この流行り病に罹る者がちらほらと出てきた。
もちろん、直ちに初音の方の部屋に近づくことが禁じられる。
もし御懐妊なされた初音の方に移って、腹の子に障りが出ようものなら御家の一大事ゆえ、御屋敷内の気配はぴーんと張りつめていた。
にもかかわらず、とうとう、あんなに気をつけていたはずなのに、日中は一番初音の方の身近にいる寿姫が罹ってしまった。
「継母上……申し訳ありませぬ……」
戸板に乗せられた寿姫は、熱で荒い息をしながら、養生するための部屋に運ばれて行った。
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