第二話

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その日以来、父親が往診で翌日まで帰ってこないときを見計らって、兵部少輔が人目を忍んでやって来て、初音と逢瀬を重ねるようになった。 兵部少輔はかような、こそこそした形で初音を扱いたくなかった。 自身の母親も、途中で正室を引き継いで継室(けいしつ)に直されたとはいえ、初めは側室にさえしてもらえず、その関係は何年もの間秘められていたからだ。 長じた自分も、それと同じことをしているのかと思うと、今は亡き母に申し訳が立たなくて辛かった。 だから、ことあるごとに、正室にはできないが、二親(ふたおや)とも武家の出である初音は文句なく側室として迎えられるから、屋敷に来てくれと云うのだが、初音は頑として受け入れなかった。 大名家の血をひく正室は、(かん)がきつく、思い通りにならぬときは癇癪を起こして、それが高じると引きつけを起こすと聞いている。 妻妾同居となれば、どんなふうになるか気が知れなかった。 今の暮らしでは、兵部少輔がいつ訪れてくれるかわからず、時折どうしようもない不安に襲われることもあるが、それでも初音は「仕合わせ」だった。
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