第三話

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湧玄なら、夕刻になる前に自分の家に戻ったはず。 ……なにゆえ、こんな(とき)に。 「初音さん……」 湧玄がにじり寄ってくる。 初音はじりじりと後ずさる。 「湧玄どの……こんな夜更けに女が独り身の家へ来るなぞ、あまりにも不躾でござらぬか」 思わず、尖った声になる。 土間をじりじりと後ずさっている間に、三畳ほどの小上がりまで来てしまう。 「……初音さん、もう一度云う。 長崎へ……一緒に行ってくれないか」 湧玄は切羽詰まった声で迫った。 初音は激しくかぶりを振る。 長崎へなど行く気は毛頭ない。 たとえ、このまま、この寄る辺ない立場が永遠(とわ)に続いたとしても。 ……わたくしは、鍋二郎さまのお(そば)におりまする。
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