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「……鍋二郎さま……」
初音が微かに呟いた。声にはなっていなかった。
「もう一度、訊く」
兵部少輔は左の親指で、本差の鍔をかちり、と鳴らして浮かせた。
「おまえ……初音になにをしておる」
湧玄は初音の上から、ばっ、と飛ぶように降りた。
初音はすばやく湧玄から離れ、乱れた着物の前をかき合わせ、両腕でおのれ自身を抱きしめた。
髪はぐずくずに乱れて、歯の根も合わぬほど、がたがたと震えていた。
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