第十一話

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寿姫は、それから三日三晩、熱にうなされた。 一時は、目を閉じた(まぶた)の向こうに、極楽浄土の前に横たう三途の川が見えていた。 しかし、五日目にはすっかり熱も下がった。 なのに、兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)から寿姫が元のように初音の(かた)の部屋に入ってもよいと申し渡されたのは、翌月の師走(十二月)に入ってからだった。 別に、兵部少輔が寿姫を快く思わないからではない。 むしろ、日中は自分が傍らにいられない代わりに、初音が心を開く寿姫に一緒にいてもらいたかった。 初音のおかげで、わだかまりのあった兵部少輔と寿姫が少しずつではあるが、何気ない話をするようになった。 実は、兵部少輔は寿姫のために許婚(いいなずけ)を探していた。 もちろん、実際に輿(こし)入れするのはまだまだ先だが、実の母方の後ろ盾がない寿姫の将来が不安定なものであるからだ。
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