第十一話

3/6
579人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
今度は兵部少輔に異変が出た。 もともと、幼い頃より季節の変わり目には必ず風邪をひき、思いのほか長引く性質(たち)であった。 大人になった今は、さすがに季節の変わり目ごとにはひかなくなったが、それでも冬になると必ずしつこい風邪に罹っていた。 今回もまた、時節柄にもいつものそれだと思われた。 ただ、今までとは違うのは、いつも診てくれていた初音の父親である御殿医の竹内 玄丞が、もういないということだ。 新しい御殿医が抜かりなく診てくれている、と側用人(そばようにん)が何度云うても。 初音は兵部少輔の顔がただただ見たかった。 ……鍋二郎さまに、逢いとうござりまする。 初音は、近頃もごっと動く腹を、やさしく撫でた。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!