第一話

1/8
577人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ

第一話

「……今はさ、まだ先生が亡くなったばっかだかんね、初音(はつね)ちゃんも気が張ってっだろうけどさ」 借家の仕舞屋(しもたや)のことを、大家から任されている差配の女房のおふく(・・・)が、顔を曇らせ心配そうに云った。 「(つら)くなったときんはさ、なんでも遠慮なくお云いよ」 初音は頭を下げた。 「小母(おば)さん、ありがとね。お葬式のこととか、判んないことばかりで、お世話かけちゃったね」 「なに云ってんのさ。あんたのおっ()さんの代わりに襁褓(おしめ)を替えてやったのはあっしだよ」 初音が十五のときに亡くなった母親は、産後の肥立ちが悪かった。 「それから小母さん、この家のことなんだけど」 初音の目が伏しがちになる。此度(こたび)、町医をしていた父親を流行(はや)り病で亡くして、急に暮らしの(かて)を失ったのだ。 「あぁあぁ、そのこったら心配いらないよ。大家さんにはちゃあんと話は通してあるからさ。この界隈の人たちはみぃんな先生の世話になってんだ。初音ちゃんは遠慮会釈なくここにいていいんだかんね」 おふくが、水くさいとばかりに目の前で手を振る。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!