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手には何ももたずに、祈りながら、最後尾に並んで泣いていると、前にいる人達が何故か次々私に順番を譲ってくれた。
こんなに人に感謝したことは今まであっただろうか。
深々と頭を下げながら進むと、目の前に二人の店員が神妙な面持ちでこちらを見ていらっしゃる。
「どうされましたか?」
綺麗な顔だちで、細く透き通る程に白い肌の女性が歌うような高い声でこちらに問いかけてくださった。
「娘を置いて来てしまったのです。
車を買ったメーカーの系列店で、白い平屋の建物で、あまり大きな建物では無いのですが、ガソリンが無くなって、そこに眠っている娘を一人で置いて来てしまったのです。
その場所がどこであったのか思い出せないのです。
私が思い出せる限りの特徴で、何とかその場所の推測をつけることはできないでしょうか?
道を教えて頂くことができれば有難いのですが、やはり難しいでしょうか?」
必死に、ただただ必死に祈りながら頼んだ。
すると、男性がお答えになった。
男性は年配で、女性とは対照的に膨よかな身体をされている。
その表情からは親しみや徳が溢れこぼれ落ちており、そのお声は今まで感じたことがないほどに優しく弾む。
「その場所は存じております。
私が送って差しあげましょう。」
それから男性は私を娘のいる場所まで送ってくださった。
急いで娘が待つ車に駆け寄り、後部座席に乗り込むと娘をチャイルドシートから降ろした。
娘は目を閉じて動かない。
泣きながら抱き寄せた。
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