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私の腕の中で娘がモゾモゾと動いた。
目を開けて、首を左右に動かして唸り私のことを呼んだ。
いつもの寝起きの様子と全く変わらない。
昼寝では無く、夜熟睡した後の寝起きの様子。
それにオムツを開けてもオムツはほとんど濡れていない。
気づくと雨は止み、外は正午のように眩しいくらいに明るく、空気は明け方のように澄んでいる。
もしかすると、それ程時間は経っていなかったのかもしれない。
私は娘を抱きしめて、安堵と喜びを噛み締めた。
「よかった。本当によかった。
ごめんね。 本当に、本当にごめんね。」
頭を撫で、顔を撫で、娘の匂いをたっぷり吸い込むと、その様子を男性がご覧になっているのに気づいた。
満面の笑みで。
「本当にありがとうございました。 何かお礼をさせてください。」
「お礼はいりませんよ。」
そういう男性に私はリュックからピンクのマーカーに蛍光ペン、それから口紅と頬紅、他にも私が持っている全てのピンクを差し出した。
「ピンクは愛の色です。 私が一番好きな色です。
どうか私が持っている全てのピンクを私の感謝の気持ちとして受け取ってください。」
「本当に頂いて良いのですか? 」
「是非、そうでないと私の気持ちが治りませんし、私には娘が身につけているピンクがあります。服と靴のピンク色。
私はピンク色を絶対に忘れません。」
男性は何度か頷き両手いっぱいにピンク色を抱えると満面の笑みで言った。
「どうぞ、お幸せに。 これからも、あなたが持つ溢れる愛をどうかお忘れなく。」
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