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白い白い、何も描かれていない白紙を切り抜いたかのように真っ白い世界に、彼女はぽつんと立っている。
その白の真ん中に何を描こうと思考しているのか、はたまた白の中から何が現れるのか確かめようとしているのか、雪景色にカメラを向けたまま微動だにしない。
A「雪が降ってきたよ。そろそろ帰ろう」
B「……」
A「風邪ひくよ」
B「……」
Bはいつもこうだ。
カメラを構えたら、周りの人間の声など耳に入らない。
待つのは、いつも僕だ。
A「……」
B「……」
A「寒くないの?」
B「……寒くない、と思う」
A「”と思う”って……?」
B「これが、みんな砂糖だったら寒くないじゃない」
A「……は? 砂糖?」
B「うん。寒くないし、甘くて美味しい」
突拍子もないことを言うBは真顔のまま、まだファインダーを覗いている。
一応、のってあげた方が良さそうだ。
A「えーと……じゃあ、その砂糖に降られている僕らは何なわけ?」
B「砂糖の人形」
A「……あの、サンタクロースとかの?」
B「うん」
なんと、自分たちまで砂糖にするのか……!
A「じ、じゃあこの一面の雪景色はホールケーキの上……とか?」
B「……それ、いいね」
良くないよ!……と突っ込みたかったけど、Bはまんざらじゃなさそうな様子だ。
なんだか否定しづらい。
B「でも、ホールケーキじゃない」
A「?」
B「……みたい」
A「え? なに?」
何やらボソボソ言うBの口元に耳を近づけると、Bはファインダーに向けていた視線をこちらへ向けた。
B「…………」
A「なに? 聞こえなかった」
さらに耳を近づけると、息がかかるほど近くにBの唇が近寄ってきた。
B「 」
A「…………え?」
聞き返す僕の声を遮るように、Bはシャッターを押した。
パシャっという音が聞こえた時にはもう、粉雪は舞っていなかった。
僕の唖然とする間抜け面をカメラに収めて満足げなBは、小走りで走り去っていった。
Bの足音だけが響く中、僕の耳は、先ほどのBの囁きを反芻していた。
「二人並んだ、ウェディングケーキみたい」
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