真っ白い世界で

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
白い白い、何も描かれていない白紙を切り抜いたかのように真っ白い世界に、彼女はぽつんと立っている。 その白の真ん中に何を描こうと思考しているのか、はたまた白の中から何が現れるのか確かめようとしているのか、雪景色にカメラを向けたまま微動だにしない。 A「雪が降ってきたよ。そろそろ帰ろう」 B「……」 A「風邪ひくよ」 B「……」 Bはいつもこうだ。 カメラを構えたら、周りの人間の声など耳に入らない。 待つのは、いつも僕だ。 A「……」 B「……」 A「寒くないの?」 B「……寒くない、と思う」 A「”と思う”って……?」 B「これが、みんな砂糖だったら寒くないじゃない」 A「……は? 砂糖?」 B「うん。寒くないし、甘くて美味しい」 突拍子もないことを言うBは真顔のまま、まだファインダーを覗いている。 一応、のってあげた方が良さそうだ。 A「えーと……じゃあ、その砂糖に降られている僕らは何なわけ?」 B「砂糖の人形」 A「……あの、サンタクロースとかの?」 B「うん」 なんと、自分たちまで砂糖にするのか……! A「じ、じゃあこの一面の雪景色はホールケーキの上……とか?」 B「……それ、いいね」 良くないよ!……と突っ込みたかったけど、Bはまんざらじゃなさそうな様子だ。 なんだか否定しづらい。 B「でも、ホールケーキじゃない」 A「?」 B「……みたい」 A「え? なに?」 何やらボソボソ言うBの口元に耳を近づけると、Bはファインダーに向けていた視線をこちらへ向けた。 B「…………」 A「なに? 聞こえなかった」 さらに耳を近づけると、息がかかるほど近くにBの唇が近寄ってきた。 B「 」 A「…………え?」 聞き返す僕の声を遮るように、Bはシャッターを押した。 パシャっという音が聞こえた時にはもう、粉雪は舞っていなかった。 僕の唖然とする間抜け面をカメラに収めて満足げなBは、小走りで走り去っていった。 Bの足音だけが響く中、僕の耳は、先ほどのBの囁きを反芻していた。 「二人並んだ、ウェディングケーキみたい」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!