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ザザッザザッと、折角の雑音のような幻から抜け出してしまった。
家という箱で目を覚ます。
今日もまた僕は対して意味のない朝を迎える。
やることなんて決まったことしかなくて、ケトルでお湯を沸かしている間に、顔を洗ってぼんやりとした頭を起こす。次にインスタントコーヒーを百均で購入したネイビーのマグにティースプーン三杯入れて、沸かしたてのお湯を注ぐのだ。それをひとくちだけ含んで熱いと感じて、ちょっと冷ましがてらスーツに着替える。近所のパン屋で安く売っているパンの耳を口にして、頃合いをみて程よく冷めたコーヒーで流し込む。歯磨きだけは念入りに、幼い頃からの習慣でじっくりと丁寧に一本ずつ磨くのだ。コーヒーの色が歯に残らないように、しっかりと丁寧に。髪は適度に整えて、清潔感に気を払う。
そして家を出る前に、ちゃんと名前も知らない金魚に餌を与える。さらさらと水面に浮かぶ餌をひと飲みひと飲み、ぱくぱくと飲み込んでいく。食べ始めたのを確認して、家を空にする。
鍵を閉めた家に、閉じられた箱に、金魚を一匹だけ残してきた。そいつにとって、ここから逃げる術は無い。
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