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時間がとても長く感じられて、身体を起こしてユウキのセブンスターを一本借りた。
彼の長い茶髪と濡れた黒目がちな眼がすり寄って、僕を長い時間に引き戻そうとする。猫をあやすように身体中を撫でると、時々わざとらしく小さい声を上げる。
ここにいるのは二人だけだが、ここは僕の部屋でもユウキの部屋でもない。火種を潰してから僕は立ち上がった。
「帰るわ。送って」
「どこへ、」
「向こうのほう」
「何それ。イミフ」
ユウキのスクーターの後ろに乗せてもらい、自分の通う高校まで。原付なのにメットはちゃんと二つあったのが可笑しい。
片側三車線の大きな橋の上で白黒の車とすれ違った。すぐさま不穏な赤いライトを回し、速度を上げて転回を始めたから、僕らはコースを変えて細い土手周りに滑り込んだ。二人の髪がたなびき、右手に見える川面は眩しく光り、ぬるいはずの風は気まぐれに冷たくなる。
彼と校門前で軽くキスして別れ、僕はガムを噛みながら五時限目のチャイムと共に教室に入った。
カーネル・サンダースと瓜二つの担任が無表情で、おそよう、とだけ言って数学の授業を始める。
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