血液依存

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 エアコンの効き過ぎたアパートで、僕は立ち上がり、冷蔵庫からローションを取り出す。小皿に移してレンジで十数秒、ユウキが火傷しない程度に温める。 「暖かい方がいいんだろ」 「うん。アキちゃんも舐めて…」  それをしたあと、ユウキは少しずつ狂気を孕む。  彼には両親がいなかった。  手首の傷を見たときに、最初、思春期にありがちな自己主張の残滓だと思った。でも後からそれは間違いだったことに気づく。  彼は、しきりに僕の血を飲みたがるようになっていた。  目立たないように上腕の内側に包丁を引いた。ユウキは僕の脇腹に絡み、僕が彼のために新しい傷をつけるところを息を荒くして見つめていた。  ひとときのあと、弾けるように夢中で傷に吸い付きながら眼を潤ませるユウキに僕は尋ねる。 「美味しい?それ」  ユウキは首を横に振った。 「一緒に生きる、って感じがする」 「そう、」  僅かに黙ったあと、僕は少し勇気を出して言った。 「血じゃなくて、生きればいいんじゃない」  ユウキがまた首を横に振り、微笑んで眼を瞑った。 「嘘ばっかり」  そのときから今日まで、僕は彼に血をあげた事を後悔したことはない。  そして僕は二度とユウキと会う事はなかった。
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