こんなもの

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「はぁっ……っ……はっ…………」 暗い路地裏を必死に走る。後ろから足音が聞こえてくる。 「くそっ……どうして……」 俺は所謂ブラック企業で働いている。就活に失敗し、新卒というアドバンテージは無くなった。それでもブラック企業は嫌だとバイトをしながら正社員になる道を探したが上手くいかず、結局バイトで培った接客力を活かして営業を頑張って欲しいと採用してくれた会社に入った。何回かあった面接で社長と話したがとても熱い人で、ここなら大丈夫だと思ったのだ。 しかし、いざ入社するとノルマを達成できないと上司から叱責される。それも「お前は何しに来た!」「やる気ある?」「こんなのお前の能力が足りないからだろ!」「相手のことはいい、この会社の利益が第一だ!」と人間性を疑う言葉をかけられたのだ。 もちろん社長にかけあった。熱い人だから何とかしてくれると思ったのだ。しかし返ってきた言葉は、「私言ったよね? 会社のために頑張れるかってさ。はいって言ってたよね?」 他の社員も誰も助けてくれない。多分日常茶飯事なのだろう。ならこの仕事を辞めれば良いと言われるかもしれない。でも、辞めて俺に何ができるのだろう。バイトで一生過ごすのは無理だろう。だからといって俺のような奴が正社員になれるか? 辞めて仕事が見つからなかったら本当に俺は終わるんじゃないか? 今日も上司に叱責され、心はズタボロだった。そういう日は夜の町を歩きたくなる。夜の静けさを感じたいのだ。俺は会社帰り繁華街の路地裏を一人歩いていた。午前2時。丑三つ時とか何かありそうだとおもいながら笑ってしまう。何かあって困ることもないか。 12月の寒い時期、冷たい風が頭を冷やしてくれる。
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