0人が本棚に入れています
本棚に追加
何個目かの角を曲がった時、見てしまった。
目出し帽を被った黒一色の二人の人物が持つ包丁と足元に広がる赤を。
「見られた!」
「顔はばれてない」
「少しの情報でもばれたくない」
男たちの会話は頭に入ってこない。男の足元には白い顔の男が倒れていた。顔は白いが顔から下は赤い色が広がっている。
「殺るか」
その声でハッとする。そして、考える暇もなく走り出す。
何か話す男の言葉は分からなかった。ただひたすら走った。知らない道だからどこを走ったら通りに出るのか分からない。ただ男たちから離れたいと思った。
「はぁっ……っ……はっ…………」
追いかけてくる足音はまだ聞こえる。
「くそっ……どうして……」
どうして。俺はただ夜の空気を吸って落ち着きたかったんだ。ただ静かな場所にいたかったんだ。こんな事件に巻き込まれたかったんじゃない。
そして角を曲がった時明るい道が見えた。
あの道に出れば!
その時服を掴まれ後ろに倒れる。そして襲ってくるのは痛み。
ただただ痛い。そして何かが自分から出ていく感触。
男たちはいなくなった。
だが声を出そうにも力が入らない。
ただビルの間から見える夜空だけが優しかった。
赤い星がある。なんだっけ、あれはオリオン座の一部だっけ?そういえば最近空を見上げることなんて無かったな。綺麗だな。山ならもっと綺麗に見えるんだろうな。
しかしそれも少しずつ見えなくなってくる。
人ってこうやって死ぬのか。刺されるなんて思ってもみなかった。でもあれか?ニュースではこんな時間に歩いてる奴も悪いとか言われるんだろうな。結局俺は何しても駄目な奴だったってことか?何かそれも嫌だな。理不尽だ。でもそれが世の中か。
どうしようもない。しょうがない。
でも、意味ある人生が良かった。
「速報です。今日○○区の路地で男性2人が刃物で刺され死亡しているのが発見されました。警察は殺人事件と見て捜査しています。また、2人は少し離れた場所で発見されており、関連があるのかも含め慎重に捜査しているということです」
最初のコメントを投稿しよう!