そして空を見上げた

2/13
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 笑みを浮かべることが出来なくなった幼き少女。  その少女は、聡明で同年代の子供とは明らかに違った。  少女の両親は天才と知り、純粋に歓喜する。  直ぐに英才教育の準備をして、様々な知識を植え付けた。 「お前は愚者になるな」 「……はい。お父様」  「貴女は将来立派になりなさい」 「……はい。お母様」  同じ台詞を自らの子に欠かすことなく、口にする。  洗脳と言われても可笑しくはない行為。  少女は両親が喜んでくれるのであればと思い、只々従った。  遊びを禁じ、同年代の子供との接触を遮断する。  基本、二階の部屋に閉じ込められる日々。  両親は各専門の講師を雇い、休むことなく家に招き入れた。 「今日は帝王学を覚えようか」 「……はい、先生」 「将来出世をしたら、私の名前を広めてくれて構わない」 「……はい、わかりました」  講師の中に、自らの名前を売りつける者も居た。  更に酷い講師は、己の息子と婚約を結ぼうと目論んだ。  当然ながら、聡明な少女には理解した上で茶を濁す。  空気が重く、息苦しい部屋に軟禁された幼き少女。  視線を窓に向けて、澄み切った空を呆然と見上げた。 「笑い方、忘れちゃった」と、力なく少女が呟く。  月日を重ねるごとに笑みを失ってしまったのだ。  唯一の楽しみは窓から見える、自由な世界。  鳥籠の中に入れられた、賢いだけの小鳥――……。  空を羽ばたく鳥たちを眺めつつ、少女は自分を比喩した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!