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笑みを浮かべることが出来なくなった幼き少女。
その少女は、聡明で同年代の子供とは明らかに違った。
少女の両親は天才と知り、純粋に歓喜する。
直ぐに英才教育の準備をして、様々な知識を植え付けた。
「お前は愚者になるな」
「……はい。お父様」
「貴女は将来立派になりなさい」
「……はい。お母様」
同じ台詞を自らの子に欠かすことなく、口にする。
洗脳と言われても可笑しくはない行為。
少女は両親が喜んでくれるのであればと思い、只々従った。
遊びを禁じ、同年代の子供との接触を遮断する。
基本、二階の部屋に閉じ込められる日々。
両親は各専門の講師を雇い、休むことなく家に招き入れた。
「今日は帝王学を覚えようか」
「……はい、先生」
「将来出世をしたら、私の名前を広めてくれて構わない」
「……はい、わかりました」
講師の中に、自らの名前を売りつける者も居た。
更に酷い講師は、己の息子と婚約を結ぼうと目論んだ。
当然ながら、聡明な少女には理解した上で茶を濁す。
空気が重く、息苦しい部屋に軟禁された幼き少女。
視線を窓に向けて、澄み切った空を呆然と見上げた。
「笑い方、忘れちゃった」と、力なく少女が呟く。
月日を重ねるごとに笑みを失ってしまったのだ。
唯一の楽しみは窓から見える、自由な世界。
鳥籠の中に入れられた、賢いだけの小鳥――……。
空を羽ばたく鳥たちを眺めつつ、少女は自分を比喩した。
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