赤ワインが命

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   ワインボトルが割れた、その日  私はワインが好きだ。ワインは人の喜びであり、最も素晴らしい飲み物だ。私はワイン一筋で生きて来た女で、これからも変わることはない。彼はそのことに大変よく理解を示してくれている、はずだった。  その日、私が二本目のワインボトルに手を伸ばすよりも早く、彼の手がワインボトルを掴んでいた。 「どうしたの。もしかして、あなたもワインが飲みたくなったのね。一緒に飲みましょう」 私が笑っていると、彼のワインボトルを掴む手が震えだした。ワインボトルがキュっと音をたてた。 「俺とワイン、どっちが大事なんだ」 「ワイン」  即答した。ワインは、それこそ私の命の次に大事な物だ。彼もわかっているはずだ。  彼はいじらしく笑った。ワインボトルを持った腕を大きく振りかぶり、床に振り下ろした。ああ、ワインボトルが。ワインボトルが。 「いやぁーーーー!!」  自分でもうるさいほどの悲鳴を上げた。その悲鳴から逃れるためか、これから聞こえるワインボトルの悲鳴から逃れるためなのか、私は耳を塞ぎ、目を閉じた。  耳を覆った両手を通り抜けて、とても悲しい音がした。それからのことは、あまりよく覚えていない。
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