拝啓、愛しき人

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「婆ちゃん、押し入れに入ってたこの本、何?」 大分年季入っとるけど、そう続けながら縁側に座る祖母、千代に空飛は聞いた。 先程まで押し入れに入りかがんで掃除をしていたためか腰が痛む。いたたた、と腰を叩きながら千代に本を見せた。 「あぁ、懐かしいねぇ...。」 千代はどこか嬉しそうにそれを受けとると本の表紙を眺めた。 「やから、何なん、これ。」 「これはな、あんたの爺さんが遺してくれはった物やよ。」 「へぇ...。」 悟は仏壇に目を向けた。軍帽を被ったまだ若い祖父の写真が飾ってある。空飛は祖父について「戦争で死んだ」ということしか知らなかった。 「あの人、また何処かで飛んでるんやろか...。」 切なく、そして優しく微笑みながら空を見上げた。 「えっ?」 「あの人、よく鳥になりたいなんて言うてたんよ。自由に空を飛び回りたいんやー!って。」 千代は楽しそうに笑った。 「でも、婆ちゃん"また"って...。」 「...あの人な、特攻隊員やったんよ。」 「特攻隊って...まさか...」 「...そう、神風や」 「俺の名前...もしかして...」 「気づいたんか」 そういって千代はクスリと笑うと、本の表紙をめくった。 本の正体は日記だったようだ。 千代が本を開いてパラパラと捲る。 すると最後の方にページを一枚あけて、「拝啓、愛しき人へ」と綺麗な字で書かれたページがあった。 「こんなページあったんや...」 「婆ちゃん、気付かなかったん?」  「何回も読んだはずやねんけどなぁ...」 ゆっくりとページをめくった。
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