ファスナー

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『マキちゃーん。マキちゃーん』   三度、聞こえる。 カラスの鳴き声なんかじゃない。その声は。 『マキちゃーん。どこにいるの? 返事してー』   高いところから、僕の頭上へ落ちてきた。 『ここだよ。お母さーん』   2階建ての家よりも 『お母さん、これからお買い物に行ってくるけど、お留守番できる?』 高層マンションの屋上よりも 『うん、できるよ。マキ、お姉さんだもん』 ジェット音と共に舞い上がっていく飛行機よりも 『いい子にしててね。すぐ帰ってくるから。この前みたいに、お父さんの仕事部屋へ勝手に入っちゃダメよ』 もっともっと高い所から 『はーい』 その会話は、落ちてきた。
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