夜空に浮かぶ

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暗い空に息が白く映る。 もう何も考えたくない。 誰もいない公園。 久しぶりにすべり台にのぼってみた。 見下ろした地面がとても近く見える。 子どもの頃はこんなにちゃちなものでも喜べたのか。 こんなものに感動していた自分は馬鹿だ。 馬鹿ついでに、それを滑ってみた。 想像よりも短い距離。つまんないスピード。 もうこれ以上生きてる意味なんて感じられることがあるんだろうか。 すべり台に寝ころんだまま、自分のこれからを味気なく空想した。 冬の冷たい夜空が目に入る。 ああ、そうか。冬だ。 吐く息の熱さに、冬を知る。 ぼんやりと眺める。 寒い季節だから、夏よりも冬は星がきらきらするんだよ。 子どもの頃、誰かに聞いた。 意味が分からない。 でも、その光は小さいけれど、冷たい空気と一緒に僕を刺す。 かすかな痛みが僕の「形」を教えてくれる。 じっと星を見つめていたら、急に吸い込まれそうになった。 夜空へ、体が浮く感覚。 空と地面が逆転するような、不思議な体験。 体がすべり台に戻るまで、心臓がバクバクした。  怖かった。 ……でも。 空へ吸い込まれる感覚は、悪くないと思った。 今見ている景色が、逆さまになる瞬間がある。 それは、退屈じゃない。 小さな宝物を手に入れたような気がした。 石ころのような平凡の、小さな宝石のかけらのようなかがやきの。 誰にも言いたくない魔法の体験。
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