天空のカメラマンはカラまわり

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 そうして呼ばれた日曜日、私は勝手知ったる彰人の家にお邪魔した。幼い頃から行き慣れた家なので、もはや第二の家な感じさえしてくる。 「来たよー。彰人」  インターホンを押すと、彰人がドアを開けてくれた。 「ああ。座って待っとけ。もうできるから」  ダイニングルームに案内された後、指示に従って私は席に着く。そわそわしながら、いいにおいに心を和ませる。 「はいよ」 「おー! これ、何?」  出されたケーキを見て、私は首を傾げた。 「シブースト・オランジュ」 「シブースト……」  ほうほう、と私はフォークでケーキを切って、ひとくち食べた。 「……おいしい!!」 「だろ」 「うん!」  中にはオレンジが入っているらしい。林檎やイチゴならともかく、オレンジはちょっと珍しいんじゃないだろうか。爽やかな酸味が、ケーキの甘さとよく合っている。  上の方はかりかりのキャラメリゼだったので、触感もとてもいい。  文句なしに、おいしい!  実は昨日ひとつ小さなコンクールの結果が出て、まただめだった。それで少し落ち込んでいた心が癒されるような、優しい甘酸っぱさだった。 「これって作るの難しいの?」 「まあまあだな」 「へー。でも、すごいよね彰人……ケーキ作りって、見てるだけで難しそうだし、面倒そう。どうしてそんなに、苦もなくできるの?」  苦もなく、どころか彰人はお菓子を作っている時いつも、楽しそうだ。あんまり表情豊かな方じゃないからわかりにくいけど、幼馴染の私にはわかる。 「……そりゃあ、好きだからだろ」 「好き……?」 「お前もそうなんじゃねえの、写真」  そう言われて、私は硬直した。  私、写真好きだった――よね。ああ、そうだ。あれ、どうしてすぐに答えられないの。 「うん……そうだね」  私の相槌は、我ながら空疎だった。
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