天空のカメラマンはカラまわり

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 次の日、放課後に屋上に上った。  見上げると、刻一刻と変化する空が見えた。夕刻を控えた空は表情豊かだ。薄青い全体。遠くに茜色が見えて、深い青が染み出している。 (きれい、だけど)  私の心は感動していなかった。  昔は、どんな空でも感動してシャッターを切った。永遠に変化し続ける空が好きで、一瞬を切り取るカメラが好きで。  なのに、私は今、空を「被写体」としてしか捉えていない。 (ああ、そっか)  評価されていって、天狗になって。もっともっと評価が欲しくなって。私にとって空とカメラは、評価される材料になっていた。  いつしか、大切な気持ちを忘れてしまったらしい。  あの気持ちは、いつか戻るのだろうか。  気づいてもなお、私の心は動かなかった。  その後、私は調理部の部室に向かった。また他の部員たちが会釈して、私もにっこり会釈を返す。  彰人は黙々と、何かを作っていた。 「今日は何を作ってるの?」 「ガトーショコラだけど」 「いいねえ、おいしそう。……ねえ、彰人。今日、お菓子撮らせてくれない?」 「菓子を撮る? 何でまた」 「いいから。できあがったら、撮らせて」 「……別にいいけど」  彰人は不審そうな顔をしていた。  そうして出来上がったガトーショコラ。きれいなブラウン。かかった生クリームも、添えられたミントも実に絵になる。 (そうそう、こんな気持ち)  空については、まだ吹っ切るのは難しい。昔の気持ちを思い出すには、もっと時間がかかるだろう。  だから、今一番私の心を癒してくれるものを撮ろうと思った。  ぱちり、シャッターの音を鳴らす。  結果はどうあれ、今は――と、私は幼馴染の作ったお菓子の魅力を余すことなく撮ろうと奮闘したのだった。 (了)
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