天狗は亀に乗って

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赤ら顔の真ん中にずんと突き出たズッキーニのような鼻と、かっと見開かれた金の(まなこ)を持つ人型の妖怪。 修験者の装束をまとい、背中に羽を生やしている。 むかし話に出てくる、天狗そのものだった。 眉太く、眼はぎょろりとして眉間にしわの刻まれた厳つい顔だが、よほどの年寄りなのか皮膚にはたるみがあり、肌の色もくすんでいる。 翼は煤のような艶のない黒色で、あちこち毛羽立ってみすぼらしい。 ちびの老天狗は、しゃがれ声を張った。 「イッセイ、おぬし頼まれてくれないか」 初対面の相手を呼び捨てにするとは無礼なやつだ。 腹が立ったが、好奇心をそそられもした。 俺は、「なんだ、言ってみろ」と応じる。 「オハナとの約束があるのだ」 話を聴く気になったのは、そいつが彼女の名を口にしたせいだ。 約束があるなんて言われたら、どうしたって放っとくわけにはいかない。 「約束どおり、十八になり成人したオハナを迎えに来た」 「彼女は俺と付き合っている。ほかの誰かと間違えているんじゃないか」 「オハナが十四歳のときに約束したのだ」 天狗は甲羅の上で精いっぱい伸び上がって、胸を張った。 一本歯の下駄を履いた足は小刻みに震えている。 濡れた甲羅の上で、今にも滑りそうだ。
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