16人が本棚に入れています
本棚に追加
朝のこの時間、まだ寝ているかなと思ったが、すぐに返信があった。
「急いで行くから、ボートハウスの前で待ってて」
天狗を見たことよりも、彼女の返事に驚いた。
「オハナの家はすぐ近くだから、十分か十五分ほどだろう」
俺がそう伝えると、天狗は「よっこらしょ」と甲羅の上に立ち上がった。
「おぬしはやはり、よい男だ。……イッセイ、すまぬ。どうか許してくれ」
なんのことだ、と尋ねる間もない。
のぞき込む俺の顔に向けて、天狗が広げた手のひらを突き出す。
めまいが襲ってきた。
目の前の光景がぐるぐると回り始める。
立っていられなくなった。
世界が暗闇に覆われる。
意識が遠くなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!