むかしばなし

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俺が身じろぎをしたのに気がついたのだろう。 亀は首をめぐらして、甲羅の上を覗いてきた。 巨大爬虫類をモチーフにした特撮映画のような光景だ。 「目が覚めたか」 亀が喋ることにも驚いたが、それよりも黒曜石のような目に映る人影に衝撃を受けた。 先ほどの夢に出てきた、天狗がいる。 俺はすばやく体を左右にひねり、周囲を見渡した。 だが前後左右、空を見上げても、妖怪はどこにもいない。 しばらくして身の毛もよだつ事実に気がついた。 亀の瞳に映る天狗の動きは、俺の動きと一緒だ。 映り込んでいたのは自分だった。 信じがたいことだが、俺は神通力で身体を入れ替えられてしまったらしい。 「天狗はどこだ? どこへ向かっている」 亀は俺の問いに答え、噛みつきそうな勢いで口を開いた。 「オハナとかいう、人間の娘の家だ。天狗さまの後を追っておる」 急いで彼女の家へ行かなければ、あの妖怪が何をするつもりか心配だ。 俺は亀から飛び降りようとした。
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