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天狗は俺を利用して、オハナを呼び出した。
亀に何を聞かされようと、俺にとっては恨めしい恋敵でしかない。
ありもしない約束の妄想を抱く、ストーカー老人だ。
「導きの神」ではなく、「血迷った神」としか思えない。
俺の体を使って何をするつもりかと思うと、いても立ってもいられなくなった。
「おろせ。俺は急いでるんだ。あいつが彼女に何をするか、知れたもんじゃない」
「天狗さまのお体だぞ。丁重にあつかえ」
分からず屋の草亀と口論していると、いきなり背後から人の手につかまれた。
声をあげる暇もない。
強い手で胴体が締め付けられる。
肺の空気が絞り出された。
よもや、天狗の仕業か。
俺を始末しにきたのか。
加減を知らぬ指の力に、あばら骨が軋む。
「やめろ、天狗。お前の体だぞ、乱暴に扱っていいのか」
無駄と知りつつも、振りほどこうと身をよじる。
ふいに力が弱まった。
「ごめんなさい、痛かった?」
予期せぬ女性の声に驚き、俺はバランスを崩して手から落ちた。
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