フラストレーション。

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文化祭では合唱の発表が行われ、その中で優劣をつけるという下らない行事が、年に一度イベントとして開催される。わたしたち中学生はその下らないイベントの為に一喜一憂し、揉め事をしばしば起こす。 やっていられない。 いつものようにコッソリと抜け出し、職員室から一番離れた渡り廊下にしゃがみ込む。そしてポケットに入ったタバコとライターを確認し、周囲を見渡す。吸う気はない。これは一種のお守りだ。わたしの心を守るための、お守り。 九月の下旬はまだ暑いので、教室の窓が空いている。いろんな方向から、大して上手でもない歌声が微かに聞こえるのが鬱陶しい。悪い仲間達も、おだて上手な先生に唆されて一生懸命歌っているのだろう。 どうしてわたしは、一生懸命になれないのか。来年には高校受験もあるというのに、こんなところにしゃがみ込んで、最近短くした髪の毛に触れている。夏休みが終わる頃に黒く染め直したが、もう色が抜けてきてしまった。何度染めても、その繰り返しだ。 行き場のない苛立ちを感じながら携帯電話を見つめていると、特徴のある足音が近づいてきた。期待していなかったわけではない。むしろこのシチュエーションを期待して、わたしはここに毎日来ている。 「また逃げてきちゃったの?」 親の声よりも友達の声よりも、わたしが一番聞きたかった声が聞こえてくる。その瞬間、わたしの苛立ちは消え、耳が熱を帯びる。 「どうしても嫌なんだもん」 「それは仕方ないね」
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