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先生はわたしの隣に腰を下ろした。背が大きくて、白衣を着ている。それくらいの特徴しかないこの人を、わたしは好いている。中学生に似つかわしくない恋。一緒に遊びまわっている友達にも言っていない、わたしだけの秘密。
「まあ俺も、あんまり学校には行ってなかったから気持ちはわかるけど」
「行ってなかったの?なんで?」
「あれが俺の思春期だったのかな」
笑いながら言う先生との隔たりを感じた。今のわたしが思春期の真っ只中にいるということは、もちろんわたしも理解している。しかし先生にとって思春期とは遠い昔に経験した、今は名残もない期間のことなのだ。年齢による隔たり、立場による隔たり。それがわたしの心の中にフラストレーションとして溜まっていく。
「でも君は間違ってないと思うよ。担任の先生は困った顔をしていたけどね」
「そういうこと言われると、わたしも困る」
この先生は、わたしをひとりの人間として扱ってくれているような気がする。他の男子がサボっていたときは、先生に怒られたと言っていたが、わたしは怒られたことがない。その優越感じみたものが、わたしを支配する。一人一人に合った指導をしているだけということは、わかっているのに。
「でもここで一人でいても退屈でしょう」
「歌うよりマシ」
「そういうこと言ってると、また怒られるよ」
わたしを甘やかしてくれる存在は、先生だけ。先生もきっと、わたしが先生のことを好意的に思っているのを知っていて。それが恋愛感情だなんて、ちっとも思っていないのだろうけれど、その距離が心地よい。
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