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こうやって話しているが、本来俺達は台風出なくなった分の補習授業の真っ只中で。夏休み前の自由登校期間だから人こそ少ないが、今だって目の前で副担任が世界史とはかけ離れた下ネタ混じりの雑談をしているところだ。
「いいじゃん、ひと夏の思い出ってやつ」
「いやいや、っておい冬樹!」
俺の話は知らんぷり。
俺の腕を掴んだと思えば、あれよあれよと階段を降り駐輪場まで引っ張られてしまった。
「ふーゆーきぃー?」
「怒ってる?」
「当たり前だ!」
確かに馬鹿をやりたいとは言ったけど、何も授業をサボりたいとは言っていない。どう考えたらこうなるんだ、こいつは。
「で、どこ行くんだよ」
「文句言いながらも乗りがいい和人大好き」
ここまでこれば戻る気もしないだろ。むしろ今戻るともっと面倒な事になるのは、目に見えている。俺は恨みを込めて冬樹をちらりと睨みつけながらも自分の自転車に鍵をさして、ロックを解除した。少し錆びた音をたてながらも動く自転車を見て、もう少しで買い替えかななんて呑気な事を考える。
「わたあめの正体を、海まで見に行きたいんだ」
「お前、それは例え話って」
「でもやっぱり知りたいんだ、好奇心は人間に必要だろ」
そんなまるで子どものようなトンチンカンな話も、今となっては聞き慣れたもの。こいつは昔からそうだ。好奇心のままに行動をして後先は考えないこいつは、それこそ子どものようで誰よりも純粋無垢で。けど雲ができるメカニズムなんて、小学生の時に習わなかったか?
「また和人は、難しい事を考えてる」
「……なんでそう思うんだよ」
「眉間にしわ、寄ってるよ」
その癖俺の事をちゃんと見てる辺り、なんだかとっても憎たらしい。
「だって和人、俺達はまだ未成年だ。今見えている世界だってあるが、きっとそれは大人になれば見えなくなってしまう。俺はそれが、嫌なんだ。見える内に、全部見たいんだ」
「全部って……」
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