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ただし暑さには参るものがある。自転車をこぎつつ片手で汗を拭けば、冬樹も同じ事をやっていた。
「なんかさ、昔あったよな。自転車の歌」
「どの自転車だよ」
「そんなにあったっけ?」
昔すぎて忘れてしまった。けど、冬樹と聴いた事だけは覚えている。
「和人と歌った曲って、多すぎてわからないや」
「確かにな」
それだけの思い出を、冬樹も歌ってきた。そんな事を考えていると、何故だか胸がキュッと切なくなる。
「あら、そんなに急いでどちらへ?」
「うおぉ!?」
センチメンタルな事を考えている中で突然横から声が聞こえたと思い目線を移せば、そこには小さな羽の生えた手のひらサイズの妖精で。思わず変な声が出てしまったが、妖精は嫌な顔一つせずにクスクスと笑っていた。
「そんなに驚かなくても」
「いや、いきなり耳元にいたらそりゃさ」
「ごめんなさいね、つい」
悪びれる様子もなくふわりと笑えば、その妖精は何やら俺の顔を楽しそうに覗き込んではふぅん、なんて小さく呟いた。何に納得したのだろうか。
「なるほどね」
「一人で納得するな」
「妖精はね、なんでもわかるの。今の気持ち、大切にしなさいね」
何を言いたいのか、わからなかった。けど妖精はじゃあね、なんて言いながらそのままヒラヒラとどこかへ飛んで行ってしまい。
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