どんな時も、世界は美しい。

6/12
前へ
/12ページ
次へ
 *** 「やぁ、あんさん達、そんな急いでどちらへ?」 「河童だ……」 「河童だな」  途中のコンビニで安いプライベートブランドの炭酸水を買って外に出れば、そこに居たのは皿が干からびかけた河童で。こんな蝉だらけの時期にアスファルトの街へ出てくるなんて、なんて馬鹿な河童なのだろうか。 「俺達はわたあめの正体を見に行くんだ」 「雲を見に、ちょっと海へな」  冬樹の説明じゃ絶対誤解を受けると判断し、俺は翻訳機さながらに言葉を紡ぐ。 「そういうあんたは、今にも皿がカラカラになりそうだぞ」 「いやぁ、ちょいと迷子になってな」 「ただの馬鹿だった」  のっぴきならない理由でもあるのかと思えば、そうでもないらしい。 「おいらには一緒に行動してくれるダチがいなくてな、あんさん達が羨ましいよ」 「……」 「……だってさ、和人」  顔を見合わせて黙ってみれば、冬樹がなぜだか楽しそうに笑って。ちょっと恥ずかしくて、ふと目を逸らした。 「それよりあんさん達、その水をおいらにくれないか」 「いやいいけど、これ炭酸水」 「この際なんだっていいですぜ」  だめだろって言ってやりたかったが、このままでは河童が死んでしまう。  仕方ないと言い聞かせながら渋々かけてやれば、河童は心地よさそうに目を細めていた。これ糖分入ってるよな、ベタベタになっても知らないぞ。 「水分は戻っても糖分過多になりそうだな」 「ふはっ、言えてるよそれ」  俺の炭酸水がなくなる頃には河童はすっかり元気で、あざっしたなんて軽い挨拶だけを残してどこかへ行ってしまった。 「後でベタベタになったなんて文句言われても、受け付けないからな」 「しりこだま取られそうだな」 「やめろよ、洒落にならん」  けどまぁ、取られても文句は言えないよななんて笑えば、冬樹はそろそろ行こうかと立ちあがる。  ふわりと鼻を掠めたのは、潮の香り。  目的地は、もうすぐそこまで来ていた。  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加