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***
「やぁ、あんさん達、そんな急いでどちらへ?」
「河童だ……」
「河童だな」
途中のコンビニで安いプライベートブランドの炭酸水を買って外に出れば、そこに居たのは皿が干からびかけた河童で。こんな蝉だらけの時期にアスファルトの街へ出てくるなんて、なんて馬鹿な河童なのだろうか。
「俺達はわたあめの正体を見に行くんだ」
「雲を見に、ちょっと海へな」
冬樹の説明じゃ絶対誤解を受けると判断し、俺は翻訳機さながらに言葉を紡ぐ。
「そういうあんたは、今にも皿がカラカラになりそうだぞ」
「いやぁ、ちょいと迷子になってな」
「ただの馬鹿だった」
のっぴきならない理由でもあるのかと思えば、そうでもないらしい。
「おいらには一緒に行動してくれるダチがいなくてな、あんさん達が羨ましいよ」
「……」
「……だってさ、和人」
顔を見合わせて黙ってみれば、冬樹がなぜだか楽しそうに笑って。ちょっと恥ずかしくて、ふと目を逸らした。
「それよりあんさん達、その水をおいらにくれないか」
「いやいいけど、これ炭酸水」
「この際なんだっていいですぜ」
だめだろって言ってやりたかったが、このままでは河童が死んでしまう。
仕方ないと言い聞かせながら渋々かけてやれば、河童は心地よさそうに目を細めていた。これ糖分入ってるよな、ベタベタになっても知らないぞ。
「水分は戻っても糖分過多になりそうだな」
「ふはっ、言えてるよそれ」
俺の炭酸水がなくなる頃には河童はすっかり元気で、あざっしたなんて軽い挨拶だけを残してどこかへ行ってしまった。
「後でベタベタになったなんて文句言われても、受け付けないからな」
「しりこだま取られそうだな」
「やめろよ、洒落にならん」
けどまぁ、取られても文句は言えないよななんて笑えば、冬樹はそろそろ行こうかと立ちあがる。
ふわりと鼻を掠めたのは、潮の香り。
目的地は、もうすぐそこまで来ていた。
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