第一話 ユトリロの呪い

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「ふうん。没後五十年てことは、著作権が切れるんじゃないですか?」  ぼくは、国語の時間に聞きかじった知識を披露した。 「日本人の場合はそうだね。ところが、藤田は日本人じゃなく、フランス人なんだ」 「え、藤田さんなのに?」 「レオナール・フジタ、ですよね」  少し離れたところで、ぼくらのやり取りを聞いていた菫が口を挟み、雨宮さんが驚いて振り向く。 「おや、よく知ってるね」  やけに白い歯を見せて菫に微笑みかける。  その姿を見て、ぼくは面白くなかった。  それというのも、光源寺菫という子は、先祖はフランス人形ではないかと思うくらい、色が白くて可愛らしい顔立ちなのだ。    人形に関しては、この店で見るくらいで、まるで詳しくないけれど、ヨーロッパのビスクドールのように目が大きく、鼻も口もこじんまりとまとまっている。  鼻の上あたりにソバカスがあるのを本人は気にしているが、それすら人形ぽくて、いいアクセントになっている。  菫という名前は、彼女の母親が好きな花らしいが、薔薇というより確かに菫のイメージ。  可憐という言葉は、彼女のためにあるようなものだと思う。
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