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 うーんと大きな伸びをして、彼女は目覚めた。  日当たり抜群の窓辺に置かれたふわふわベッドは、彼女が大好きなもののひとつだ。今日も今日とて、昼下がりの温かな陽光に誘われて、こうして昼寝をしてしまった。  小さな欠伸を洩らしてから、彼女は未だ眠気の残る頭を振って、ベッドを降りた。そのまま階下へと行って、中庭に通じる扉を潜った。  ここ数年、彼女は暇さえあれば中庭に足を運ぶのが日課だった。目的は、そこにあるこぢんまりとした池である。池と言っても、ただ清らかな水が満ちているだけで、魚はおろか水草の類すらもないようなものだったが、彼女はその場所を大層気に入っていた。それこそ、大好きなベッドよりもご執心なのである。  うっかり足を滑らせて落ちてしまわないように注意しながら、彼女はそっと水面に向かって身を乗り出した。ここは風一つ吹かない場所なので、静かな水はまるで鏡のように彼女の顔を映し出す。だが、ふとその水面が小さく揺らいだ。  揺れる水は彼女の顔を掻き消し、そして次の瞬間には、そこには全く別のものが映し出されていた。     
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