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もう一度聞く。
「ふむ。足湯に連れて行くがよい」
「イヤです」
今度こそ、足早に横をすり抜けようと試みた。十センチのおじさんにサササっと道をふさがれる。おっとっと、とバランスをくずしたすきに反対へ。サササっ。おぬし、なかなかやるな、と思いつつ、「ごめんなさいっ!」叫んでジャンプっ。
着地して振り向く。
「ふう。いなくなった。やっぱり目の錯覚だったのかな?」
「バカ者。ワシはここじゃ」
十センチのおじさんの声が耳元で聞こえた。幻覚なのか嘘のような現実なのか、自分だけでは判断がつかないものだ。私の耳たぶをひっぱりながら、肩の上ではあはあと息を切らせている息づかいが妙にリアルだ。
「誰ですか?」
この質問は三回目だ。
「さあ、足湯に行こうではないか。もともと行こうとしていたであろう?」
おじさんは質問に答えてくれる気はないようだ。
確かに私は「もっとの湯」という足湯の施設へ行く途中だったのだ。ふくらはぎ位の深さの足湯が、いくつも連なっており、湯泉と湯泉の間は木の渡り廊下でつながっていて、いくつも渡り歩けるのだ。
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