手のひらを太陽に

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 数年前にさっちゃんと来た場所だ。そういえば、さっちゃんはハワイが好きだった。私はおじさんをひょいと手で持ってまじまじと見てみた。緑の葉っぱの腰まき。裸の上半身はお腹がでっぷりしていてまんまるだ。日焼けなのか地の色なのかわからないが、肌は茶色。全体的にハワイの香りがする。  「さっちゃんに免じて。じゃあ行こう」  私はおじさんを肩に乗せ歩き出した。「もっとの湯」までは、駅から一時間は歩く。以前行った時には、さっちゃんの運転だったから知らなかった。  「おじさん」  「……」  「ねえ、おじさんってば」  「おじさんではない。私のことは、さっちゃんと呼べ」  「やだ」  「本名はサラマンダーというのだが、いいにくかろう。だからさっちゃんでよい」  よくはない。  サラマンダーといえば火の精霊の名前だ。確かにお腹のでっぷりしたハワイアンなおじさんには似合わない。だからといって、私のさっちゃんには、もっと似ても似つかない。  「仕方ない。ではサーでいきましょう。イギリスの騎士の称号みたいだし。サーほにゃらら、みたいな」  本当はカメハメハ大王、と呼びたかったが、本物のカメハメハ大王にも悪いような気がしたのでやめた。  「仕方ないサー。アハハ!」  サーはおやじギャグを飛ばし、一人で笑った。  でも私は笑えない。笑いたい気持ちはあるが、先ほどから登り続けている山道のせいで、私の方が息を切らしていて、頷くのがやっとなのだ。ようやく「もっとの湯」が見えて来た。  「さっちゃん……」     
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