手のひらを太陽に

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 あの日、私を振り返って「着いたね!」って言っていたさっちゃんの笑顔を思い出した。  「なんじゃ」  サーが返事をした。  「サーじゃないわよ。さっちゃん、って言ったの」  「だからさっちゃんという名前にしておけばよかったのだ」  サーを無視して受付で代金を支払い、更衣室で靴と靴下を脱ぐ。サーはやはり私以外には見えないようだ。受付のおばさんは表情一つ変えなかった。  さっちゃんと来た時、私はうっかりして足の毛を剃ってくるのを忘れたっけ。あの時「そんなの全然見えないよ! 気にしない気にしない」ってさっちゃんは言ってくれた。でも今回はちゃんと処理してきた。ロッカーに備え付けのサンダルに履き替え、足湯に行く。  一人で来ている人は少ないが、ちらほらいるものだということを知った。この場合、サーは勘定に入れていない。  「慣れてるな」    サーは褒めてくれたが、一人でどこかに行楽に行くなんて本当は始めてだ。「もっとの湯」もさっちゃんと来たことがあったから、来られたようなものだ。  「まあね」  肩をすくめる。  「サー、足湯に入ったら、おぼれちゃうね。どうする?」  「浮けるので、そっと入れてくれ」     
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