手のひらを太陽に

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 湯泉のふちに腰かけて、足を湯に浸す。それから言われたとおりに、そーっとサーをお湯に入れる。お腹のお肉が浮き輪みたいになって、プカプカ浮いた。    「あはは!」  思わず声をだして笑ってしまった。そーっと周りを見回す。一人で笑っている変な人みたいに思われると困る。幸い近くには、サーしかいなかった。  サーは目が合うと、嬉しそうに笑って言った。  「やあ、やっと笑ったではないか。その方がよいぞ、笑っている方が」  「うん」  小さくうなずいた。だって涙が出そうだったから。  「サー、なんでかなあ。彼氏と別れた時は、一緒に行った場所にまた行ったら、思い出が上書きされてだんだん薄れたのに、さっちゃんと来た場所に来ても、全然上書きされないの。楽しかったことを思い出すだけなの」  「忘れたいのか?」  「ううん。忘れたくない。でも楽しかったことなのに、思い出すと哀しいの。だってさっちゃんにはもう会えないんだもん」  「仕方ないサー」  「こんな時にオヤジギャグ? サーに相談するんじゃなかったよ」  怒ったふりをしてみせたけど、他の人がいる場所で泣きたくはない。泣く一秒手前だったから、サーがふざけてくれてよかった。  「じゃあ次の湯に行こう」  サーと一緒に十五もある足湯を全部巡った。     
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