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 四方を真っ青な海原に囲まれた小さな国。《学園》として丘の上に区画整備されたエリアの中には、子供たちが学び暮らす学校と大人たちが働き暮らす研究棟、そして誰もが自由に出入りできる図書館が背を高くして聳え立っていた。学園の中央を陣取る図書館は赤いレンガ造りの塔のような姿で、IDスキャンゲートを構える図書館塔の入り口の手前には細長い箱のような建物がくっついている。箱の中には木製の椅子がいくつか据えられており、ロビーと呼ばれているここでなら借りてきた本を読みながら飲食が可能だ。ただし、ロビーに明るい照明や空調設備はなく、窓も正方形の小さなものが数えるほどしかないため、夏は日差しが遮られて過ごしやすいものの、冬はとにかく寒い。図書館のそばを流れる運河も凍る雪の日などは、このロビーに人影などなかった。  その冬を目前に控えた秋風が頬を撫でる穏やかな日。そのロビーに現れたのは、午前の講義を終えた2人の子供だった。 「なぁ、ヒスイ、大昔には《クリスマス》ってやつがあったらしい」     
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